ペット可賃貸を取り巻く現状
ここ数年、犬や猫を家族として迎える家庭は確実に増えています。単身者や高齢者の生活に寄り添う存在として、ペットはもはや欠かせないものになりつつあります。ところが賃貸市場の受け皿は追いついておらず、業界関係者の調査によれば、全国の賃貸物件のうち「ペット可」と明記された物件は1割強程度。しかもその多くは、小型犬1匹までといった条件付きです。猫はNG、大型犬は論外、という物件も珍しくありません。
都内でミニチュアダックスフンドと暮らす佐藤さんは、引っ越し先探しに半年を費やしました。「駅から遠くてもいいから、とにかく犬が飼える物件を」と希望を伝えても、紹介されたのは築年数の古い物件ばかり。ようやく見つけた物件も、敷金が通常の2ヶ月分に加えて、ペット飼育の追加保証金が求められました。「ペットを飼っているだけで住む場所が限られるのは、本当に辛いことだと実感しました」と佐藤さんは振り返ります。
こうした状況を生む背景には、オーナー側の不安があります。壁や床の傷、におい、鳴き声による近隣トラブル、退去時の原状回復費用——ペット飼育に伴うリスクを負いたくないというのが本音です。結果として、ペット可物件の家賃は相場より5〜20%程度高く設定されるのが一般的。敷金も増額されるケースが大半です。供給自体が少ないうえに条件が厳しい、それがペット可賃貸を探すうえでの現実です。
物件タイプと費用を整理する
ペットと暮らせる賃貸は、一口に「ペット可」といっても中身は大きく異なります。大きく3つのタイプに分けられます。
| タイプ | 特徴 | 家賃相場(ペット不可比) | 向いている人 | メリット | デメリット |
|---|
| ペット可物件 | 契約上、飼育が認められている | 5〜20%高め | 小型犬・猫を飼う人 | 選択肢が比較的多い | 種類・頭数に制限あり |
| ペット相談可物件 | 条件次第で飼育可能 | ほぼ同程度 | 交渉に自信がある人 | 物件数が最も多い | 審査や交渉が必要 |
| ペット共生型賃貸 | ペットとの暮らしを前提に設計 | 高めに設定される傾向 | 大型犬・多頭飼い希望者 | 設備充実でトラブルが少ない | 物件数が少ない |
| 近年注目を集めているのが、3つ目のペット共生型賃貸です。玄関のリードフック、浴室のペット毛用排水フィルター、爪とぎや傷に強いフローリング、高性能な界壁、共用部の足洗い場——ペットと人が快適に暮らすための設備があらかじめ備わっています。東急リバブルが手がける「ウェルスクエア駒場東大前」のように、大型犬の飼育や多頭飼いに対応する物件も登場しています。こうした物件は家賃が高めに設定される傾向がありますが、ペット関連のトラブルが少なく、長期的に住み続けられるのが魅力です。 | | | | | |
| 費用面では、敷金が家賃の1〜3ヶ月分、礼金が0〜2ヶ月分、仲介手数料が1ヶ月分程度が目安です。ペット可物件ではこれに加えてペット飼育の追加敷金が1ヶ月分前後かかるケースが一般的。維持費としてペット保険が月1,000〜5,000円、フードやトイレ用品などが月3,000〜15,000円程度を見込んでおくと安心です。 | | | | | |
| なお、東京23区のペット可賃貸の家賃相場は、1LDKで都心3区が18〜30万円、城西エリアが12〜20万円、城東エリアが9〜15万円程度。エリアによって差が大きいので、予算と優先順位をあらかじめ整理しておくことが大切です。江戸川区や葛飾区、板橋区や練馬区などは比較的ペット可物件が多く、家賃も抑えめ。都心にこだわらなければ選択肢はぐっと広がります。 | | | | | |
後悔しないための実践ステップ
では、具体的にどう動けばよいのでしょうか。ポイントは、優先順位を決めること、そして情報収集の範囲を広げることです。
希望条件の優先順位を決める——「駅から10分以内」「2LDK以上」「家賃15万円以内」——すべてを満たす物件はほぼありません。譲れない条件を2つまでに絞り、エリアの候補を広げましょう。ペット飼育者の半数以上が「駅から徒歩15分以上でも、ペットと共生できる環境なら許容できる」と回答した調査結果もあります。駅近よりも、ペットと暮らせる環境を優先する人が増えているのです。
ポータルサイトだけで検索するのも落とし穴です。SUUMOやHOME'Sなどのサイトでは「ペット可」で絞り込めますが、実際には条件付きだったり、非公開物件が存在したりします。希望条件を伝えたうえで不動産会社に相談すると、条件交渉の余地や相場感まで教えてもらえます。特にペット共生型賃貸のような専門性の高い物件は、サイトに掲載される前に紹介されることも少なくありません。
内見の際は、以下のポイントを確認しましょう。
- 飼育可能なペットの種類・大きさ・頭数を書面で確認する
- 敷金・礼金・追加保証金の内訳を把握する
- 防音性能や隣室との距離感を体感する
- ペット用設備(足洗い場、リードフックなど)の有無をチェックする
- 退去時の原状回復費用の基準を確認する
契約前には、口頭の約束ではなく重要事項説明書や契約書に「ペット飼育可」と明記してもらうことが肝心です。「相談可」だった物件を後から「やはり不可」と言われないためにも、書面での確認は欠かせません。入居後も、共用部でのルール(抱っこして移動する、リードを短く持つなど)を守り、近隣住民との良好な関係を保つことが長く住み続けるコツです。
ペットも人も快適に暮らすために
ペット可物件の選択肢が限られているからこそ、見つけた物件は長く住み続けたいものです。実際、ペット可物件は入居者の定着率が高い傾向にあります。引っ越しのハードルが高い分、契約前にしっかり確認し、納得して決めることが何より大切です。
都内のペット共生型マンションで猫と暮らす田中さんは、「以前は普通のマンションで飼っていて、バレないかいつもヒヤヒヤしていました。今は堂々と暮らせてストレスが減りました」と話します。ペットとの暮らしを楽しむには、住まい選びが最初の関門です。
まずはお住まいの地域の不動産会社に「ペット可物件」ではなく「ペットとの生活に適した物件」という視点で相談してみてください。条件の交渉次第で、想像以上に選択肢は広がります。ペットとの快適な生活は、住まい選びから始まります。